和平はそもそも、演技派です。
パスがジークに乗ってスネークに戦いを挑んだときも「パスが工作員だったとは…。迂闊だった」「まさかパスが…バンドを組もうって言ってたのに」とスネークに話す程度には図太い神経の持ち主です。
ザドちゃんが脱走した時も、全てを知っていたのにも関わらず「モグラ狩りをプロデュースするほどヒマじゃない」「どこにいるのか全くわからない。スネークぅ…。さ、さ、…探せる?」などとのたまった男です。初っ端から工作員だと分かっている相手に「俺の名前は和平。カズって呼んでくれ〜〜」の男です。並の神経ではないのです。
その後「GZs」では、誰がどう見てもいますぐ死にそうなパスに掴みかかり、貴様!!と怒鳴ります。あくまで自身がサイファーと通じていることだけは巧妙に隠したうえで、サイファー側の人間であるパスを糾弾する。直前にマザーベースの崩壊をその身に体験して尚、一切のボロを出さず完璧に「世界を破壊された男」を演じきる人間です。
そんな男が9年を奪われてどうなったか?
「幻肢」ミッションをどの状況下で乗り越えたのか?
私はずっとこの二択であると考えていました。
- 何も知らなかった
- 全てを知っていた
所謂「巨人の星」理論です。全てか!ゼロか!100か0であって50はなかったのです。ですが今日、Weluneさんの解釈からヒントを得て、新たな選択肢に気づくことができました。
- 何も知らなかった
- 真意を含め全てを知っていた
- ファントムのことは知っていたが、ビッグボスの真意は知らなかった
知っているようで知らなかった男
1の和平の主な矛盾点は「ヘリの中で彼の赤い義手を迷いなく掴んだ上、至近距離でヴェノムの頭の角を見ている」でした。ファントムだと知らなかったのならそのどちらかに疑問を抱くのでは?その辺りは納得がいくようになんらかの形でオセちゃんから説明を受けていた?病院で見たビッグボスの姿を忘れている?あの和平が?作中では語られなかった・巧妙に隠された何かの要素でその真意が分かるよう作られている…?と思っていました。
2の和平の矛盾点は完全に主観が入ります。「そもそも彼は、そんな器用なことが出来る人間であったか?」その一点です。
まず『MGSPW』は他のメタルギアシリーズ・ナンバリング作品と一線を画します。毎回「この作品で完結です!」と提示され制作されてきたメタルギアが、初めて続編ありきで企画されました。明らかにこれでは終わらない、おそらくこの話の続きは据え置き機でやるのだろう、ということがPW製作中から伝わってきました。事実、PW発売記念イベントでも「また横浜(発売記念イベントが行われた会場)でお会いしましょう」といった発言が散見され、声優さんの収録完了報告ブログ(コジブロ参照)でも、「お疲れ様でした。またお会いしましょう」という言葉がたくさん見られました。
つまりTPPを考える際にはPW・GZsを頭に入れて紐解いていくのが素直な受け取り方になると解釈しているのですが、それはTPP和平を考える=PW・GZs和平という前提を思い出すことだと気付きました。
PW・GZs和平がどのような人物であったか?そうです。一番初めから一番最後まで、爆発して彼の世界さえ崩れていくその瞬間まで。決して「俺はサイファーとつながっていたんだ」とスネークに伝えることはありませんでした。むしろすっとぼけ続けています。
そのような人間の和平が、9年間何も知らずに動き続け、いざ“Vが目覚めた”あとBIGBOSSに一度も会うことなく、カットアウトを通じてやっと会うことの出来たオセロットから伝言ゲームのような形で「BIGBOSSの真意」を聞かされ、あんな素直な行動が出来るとはどうしても思えません。彼はオセロットのように『出来た』人間ではないのです。
全て知っていて幻肢に臨むということは、ファントムが“BIGBOSS”として今後どこか遠くに消えた本物のビッグボスの代わりを務められるか、自らの命をかけて確認するということです。彼がへぼで、伝説を取り戻すことができなければ和平はボロ雑巾のように死にます。PWであんなにも「戦争で死にたくない」と強く言い切った和平ミラーに、そんなことができるのか?手榴弾で敵のボスを巻き込んででも負けたくない、簡単には死なないと必死に生きた和平が、そんな賭けに出られるのか?この場面で“BIGBOSS”と“未来”に命を賭すことができるか?和平から見れば、9年間必死に『尽くした』相手に逃げられ、絶望の世界に突き落とされ、それでも尚?
私には、どうしてもそうは思えませんでした。もはや和平から見たビッグボスは(ビッグボスがどう思っていたかは分かりませんが)自らを裏切った人間、離れた人間。真実を知ったあと二度と会うこともなく、元に戻ることはできないと気付いたはずだからです。そもそも彼がもう少しうまく生きていける人間であったのなら、こんなにもまで泥沼化することはありませんでした。それでも自らの国を作り、居場所を作り、世界を守りたかったが故になにもかも喪っていった男です。
“俺はBIGBOSSを討つ”、“次の時代に備える”。これらは、死ぬ気などさらさらない人間の言葉にしか思えないのです。
ファントムを知っていた男
そこで新たな概念「ファントムのことは知っていたが、ビッグボスの真意は知らなかった」和平です。
“Vが目覚めた”らオセちゃんがキプロスへ。和平はサイファーに目をつけられているだろうと考え、病院のあるキプロスから目を逸らさせるために別の場所で派手な行動=陽動作戦に出る。その作戦を計画する際に、ファントムの存在を聞かされます。
「(何らかの理由で)ビッグボスはすぐには来られない。代わりにあのヘリに一緒に乗っていたメディックが影武者を務める。ボスが戻るまで、彼がBIGBOSSだ」というカバーストーリー。
和平は9年前病院でメディックの頭に破片が刺さり、かなりの重傷だったことを目撃しています。おそらくは腕を喪ったことも知っているでしょう。影武者として共に生かされたことはゼロ少佐とのテープを聞く限りはなんともいえませんが、もしかしたら知っていたかもしれません。「メディック」の存在を認めることで、「ヘリの中で彼の赤い義手を迷いなく掴んだ上、至近距離でヴェノムの頭の角を見た」という点は何の問題もなくなりました。“彼自身”だと知っていたからです。
また、和平はその後正体を知っているはずの「ファントム」に対して熱演しますが、この理由は明白です。この和平の演技によって「ファントム」は自らをBIGBOSSであると信じこむでしょうし、あらゆる方法で監視しているサイファーとしても彼がBIGBOSSだと思い、迂闊に手を出せません。事実、スカルフェイスは彼がBIGBOSSだと信じきったまま死んでいきました。その演技は、自らを含めあらゆる敵に対しての防衛手段といえます。
ボスの好きな“ダンボール”もすぐに開発。何も知らない「ファントム」、どこかにいて今後戻ってくる「ビッグボス」の両方を守りぬくため、演じぬいた和平。
自分自身がサイファーとやりとりしたにも関わらず完全にしてやられたことで、その厄介さは和平が一番よく知っているはずです。その敵を倒す為なら、演技なんて造作も無い。その演技も込めての、幻肢ミッションでソ連兵に殺される直前の「ボス、後は頼む」という言葉。納得がいきます。
これから戻って来るであろうボスに対しての「後は頼む」。ここで俺が死んでもボスが報復してくれる。けして安い言葉ではありません。
本物のボスの帰還を信じていたからこそ、演じきった。9年間待ち続けて、Vの便りが未来を運んできた。
腕と足と視力を喪ってなおこの世界で、それでもボスと生きようとした和平。そしてある日飛び込んできた『真実』。
“俺はBIGBOSSを討つ”
彼の軸はぶれなかったのです。