82年生まれ、キム・ジヨン

読み始めてすぐに、これは途中で中断したら再開するエネルギーがものすごく大変な小説だから絶対に一気に読もうと決めて、深夜3時まで一気に読破しました。この判断は確実に正解だったし、睡眠時間を少し削ったけど、この時間の使い方に一切の後悔はありません。

人類の半数いるキム・ジヨン

主人公のキム・ジヨンがどう生まれどのような家庭で育ち、どのように学校での時間を過ごし、就職活動をして社会に出て会社でどのような役割を持って働き、結婚して妊娠し出産するか、かつその後どのように子育てを進めていくか…という内容が淡々と書かれている本作。
吐き気を催す邪悪とまでは言わないけど、主人公のキム・ジヨンにとっては限りなくそれに近い小さな事象が数多く降りかかり、私の中では映画「アクト・オブ・キリング」を見た後並の辛さに襲われました。ジャンルが違うけど、「うわあー!ああー!」の気持ちは近いものを感じて…まあアクト・オブ・キリングは「ええ…」「は?」「………(吐き気)」だったんだけど…(最悪を混ぜるな)
最後まで最悪という点は完全にアクト・オブ・キリングでしたね。(混ぜるな)

痴漢に遭っても「お前が悪い」「スカートが短いせいだ」と責められる。夜道で怖い目に遭っても助けてくれたのは同じ“キム・ジヨン”で、父親には「なぜそんな遠い予備校に行ったんだ」と詰められる。面接では結婚の予定を確認され、夫にはスーパーでの買い物するかのごとく気軽に子供を作ることを提案され、キム・ジヨンはその“代償”として夢と仕事とキャリアを諦める。さも当然かのように。法律で定められているかのように。

キム・ジヨンは確実にこの世界に人類の半分の数もいるのに、私はここにいますと主張することを禁じられ今に至った。
でももしかしたらこの本で、私もキム・ジヨンなのだと気付いたり、私の母は、兄弟は、友人は、パートナーはキム・ジヨンなのではないか?と認識できるかもしれない。

この小説は読んだ人の反応も含め、すべてを俯瞰してはじめて完成するアート作品のようなつくりになっていて、インターネットを軽く眺めるだけでも「日本の場合ではここまでひどくないのでは」「もしこれが韓国において日常的に起こっている話であれば、その国民性を疑わざるを得ない」「日本の場合ここまでひどくなくても、少なからず起こっている問題だ」という男性読み手のレビューがあるのがよかったです。
キム・ジヨンは日本にも人口の半分いるのに、この本を読むような意識の高い読書家の男性でもそれに気づけない。キム・ジヨンが、彼女が、あなたの隣に居たとしても。

世界中にいるキム・ジヨンが少しでもこの本を手に取って、ああ、この違和感と同時に生まれた感情は私だけのものなんだ。私だけのものであり、かつ同時に世界中のキム・ジヨンのものなんだ。と気づくきっかけになったらいいなと思います。
その物語を通して、私は気づきを人と共有してもいい、あなたに伝えてもいいと知ることができたら、世界中のキム・ジヨンはいまより少し救われるはず。それは彼女たちが胸の内に秘めた苦しみのほんの少しだけかもしれないけど。

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)
チョ・ナムジュ(著), 斎藤 真理子(翻訳)

この小説は韓国で既に映画化されていて、日本でも今年10月に公開予定らしいんですが、日本版ポスターに「大丈夫、あなたは1人じゃない。」「共感と絶望から希望が生まれた――」とか書かれていて変な声が出ました。ギャグかな?
これは広告代理店の人が誰ひとりこの原作小説を読んでいないのか、映画がとんでもないことになっているのか、私が別の原作を読んだのかと思う位のアレなんですが、実際これはどうなんだろ…キン肉マン2世超人オリンピック編アニメ最終回並みに原作と展開が違うとしか思えないんですが…(伝わらないたとえ)
原作厨なので、そういうアレでアレします…なぜなら原作厨なので……(めんどくさいオタク)

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