憧れを超えた侍たち 世界一への記録

WBC2023で活躍した野球日本代表(侍ジャパン)に完全密着したドキュメンタリー映画です。TOHO系かつ特別料金2200円での上映のみで、多分どこの劇場も各種割引や無料チケット的なサービスが利用できない特別上映。3Dとか4DXじゃない映画で2200円は初めて払ったな…。

憧れを超えた侍たち 世界一への記録 2023 WORLD BASEBALL CLASSIC™|野球日本代表 侍ジャパンオフィシャルサイト

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以前も数本いわゆる「プロスポーツドキュメンタリー映画」を見たんですが、はっきりとわかる感想がひとつあって、出来はとにかく監督によるということです。観客が見に行く理由である『何が起きたのか解っている事実・内容』(今回であれば侍ジャパンのWBC優勝)よりも映画監督の裁量による部分が本当に大きくて、例えば今回のWBC出場選手、その中でも特に大谷翔平選手の活躍が本当に素晴らしいことは誰もが知っていたとしても、編集によってその魅力が半減してしまうリスクを背負った『ドキュメンタリー映画』である本作。

結論からいえばこの作品については大丈夫でした。たまに監督が自分の創作ポリシーをねじ込んだり撮影者の結論ありきでわけのわからないことになっているドキュメンタリー映画もありますが、本作にそういう印象はなく、あくまでも侍ジャパン密着映画・万人向け・大衆が観て皆が納得して「侍ジャパン」の活躍を追えるようにしてある、一般の観客が望んでいた通りのドキュメンタリー映画です。全体的に丁寧な作りで、たまにハリウッド大作映画で言われる「商業映画」撮りを感じる。非常に見やすかったです。

ちなみに以前見たこのタイプの映画で一番ひどかったのは兎角音を死ぬほど重ねている作品で、「マジでこれ編集後に確認した?音鳴らして観た?」とブチギレながら劇場を後にしたことがあるのですが、どの程度かというと

  1. ファンの声援(ワァーというような歓声や選手応援歌)
  2. 応援団の楽器演奏音(ラッパや太鼓など)
  3. 野球自体の音(カキーンという打球音など)
  4. ベンチの声(密着ドキュメンタリーはベンチからの撮影が多いため、ベンチの物音や人の声が多く入る)
  5. 上記の音とは関係ない音楽BGM
  6. ナレーション

これらをすべて重ねて流した作品に出会ったことがあり、本当に終わりだと思いました。ほんとにこれ全部重ねるとただの騒音なんですよ。どこかの音を落として入れるとかじゃなくてみんな平等に入ってくるのがおかしい。ナレーションとか全然何を言ってるのかわからない。頭の中になにも入ってこない。助けてくれ……


さて、この「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」を語る上で欠かせないのは『プロ野球界ではいつから密着ドキュメンタリー系の撮影がスタートしたのか』という点です。
私の知っている範囲でNPB(日本野球機構)の密着ドキュメンタリー撮影が始まったのは横浜DeNAベイスターズの「ダグアウトの向こう」(2011年)で、ベイスターズが毎年作品を発表しているうちに他球団も「うちもやってみよう」という雰囲気になりいくつか制作され(阪神タイガース THE MOVIE(阪神タイガース)、FIGHTERS THE MOVIE(日本ハムファイターズ)、Truth of Dragons(中日ドラゴンズ)など)、そのうち侍ジャパンでもドキュメンタリー映画が制作・公開され(その横浜DeNAベイスターズの撮影・監督を担当したスタッフが侍ジャパン映画に引き抜かれた)、さらにいえばこの期間で映画にはならなくとも舞台裏や普段の練習風景がどんどんと公式YouTubeやDAZN等でファン向け映像コンテンツとして公開されるようになり、現在ではプロ野球のベンチ裏が撮影されるのは選手にとって『わりとよくあるいつものこと』に変化したという経緯があります。

上記のような密着ドキュメンタリー作品を何本か観ている方は分かると思うんですが、撮影者(カメラマン)とプロアスリートの間に一定の信頼がないとこの手の作品は成り立ちません。真剣勝負をしているアスリートの良い時・悪い時すべてに入り込み撮影する為、信頼がない場合カメラマンがアスリートから重要シーンの撮影をさりげなく拒まれます。すると映像素材として重要なエピソードが含まれるはずのシーンになんの撮れ高もなく、困った監督がただの試合映像の羅列(ハイライト)にしてなんとかしのぐ…というようなことが発生します。実際過去にそういう作品がいくつもあります。

今が過去と違うのは、現代のプロアスリートは上記に述べたようなドキュメンタリー映画や映像作品の存在を認識しているため、選手のみならず監督やコーチに至るまで「撮影は入るものだ」という前提があるように見受けられることです。以前と違い皆が撮影に協力的で、かつカメラマンとのコミュニケーションも積極的にとっています。明らかに雰囲気が良いです(初期は「勝手に撮影してんじゃねえよ」というような結構ギスギスした雰囲気のものも多い)。

また、プロアスリート当人は10〜20代などの若い世代がメイン層ですが、現在の10〜20代は既にYouTube・Instagram・Tik tokなどの映像共有文化に馴染んでおり、初期にあったような撮影拒否や明らかなカメラマンとの認識齟齬などはあまり見受けられず、選手にもよりますが昔とは撮れ高が明らかに違います。もうデジタルネイティブ世代がメイン層ですもんね。
あとは現代の撮影やその後の編集作業において昔よりさらに選手のプライバシーを遵守しようという意識が強くあって、明らかにおかしなものは公開されない(編集段階で弾かれるだろう)という安心感もあるのかな。昔のスポーツ紙・週刊誌基準だとマスコミの力が強く、何をどう公開されてもプロアスリートは文句が言えないというような風潮があったと思うので…

そしてこれを書きながら今気づいたんですけど今回の撮影・監督してるのって三木慎太郎さんなんですね。上に書いた「ダグアウトの向こう」2013年〜2014年を撮影後、侍ジャパンに引き抜かれた方だ。既に侍ジャパン関連だけで3本撮影していて、この業界では実質第一人者ですね。私もたぶん作品を数本観てると思います。
撮影される側も以前の大会に出場していれば既に顔見知りのカメラマンなので(今作で言えば冒頭に出てきたカブス所属鈴木誠也選手など)ユニフォーム撮影時などのフランクな撮れ高が出てくる理由がわかりました。次回以降も同じカメラマンさんなのかなー。
そうそう、作中で出てくる「優勝した瞬間のシーンの撮影」は三木監督がオリックス・バファローズ所属山本由伸投手に依頼したとのことで、実際の選手にこの撮影を依頼できる監督(カメラマン)と選手の関係性が窺えますね。ポスターも山本投手が撮影したものだそうです。いいな。

作品自体の話から結構ズレたな。基本的に構成も丁寧で、あと大半の観客が期待していたであろう「ベンチ裏でしか観られないちょっとお茶目な大谷」なんかの映像も盛り込んでいたのでどのファンも満足だったんじゃないかなと思います。あえていうなら準決勝メキシコ戦9回表1点ビハインド時に登板した読売ジャイアンツ所属の大勢投手の熱投が全カットされて9回裏大谷に繋がったシーンはいちスポーツファンとしてちょっと勿体ないな…と思いましたが、大谷映像物語として再構成するにはカットしたほうが見やすかったのか…?いやカットするな!入れろ!!!(ヤジ)千葉ロッテマリーンズ所属佐々木朗希投手のクローズアップも多かったな。私のお気に入りシーンは選手選考に悩みすぎて干からびた顔でホワイトボードにより掛かる栗山監督のシーンです。

あとひとつ思ったのは、入場者プレゼントがWBCトロフィーステッカーと侍ジャパンステッカーなんですが、こんなんロゴステッカーなんかで置きに行くな!!!大谷翔平選手の生首ステッカーでも配ってSNSで話題にさせて客を掻っ込むくらいの気概を見せろ!!!!とは思いましたが上映もTOHO系限定だしなんかいろんなしがらみがあって無理なんですかね。大谷選手が所属するエンゼルスに許可もらうのが厳しいのかな。比較的許可取りやすそうなNPBの選手生首ステッカーでも何でもやって客入れたらいいのに…と思わなくもないですが(最悪思考)作品自体が丁寧だったので文句はないです。また今大会のようないい試合が観られるといいな〜。

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